。読む者|強《あなが》ちに、はしたなき業《わざ》とのみ落しめ給うことなくば幸いなり。さて記《き》すべき事とは何《な》にぞ、そは妾の身体の普通ならずして、牢獄にありし二十二歳の当時まで、女にはあるべき月のものを知らざりし事なり。普通の女子は、大抵十五歳前後より、その物のあるものぞと聞くに、妾は常に母上の心配し給える如く、生れ付き男子の如く、殺風景にて、婦人のしおらしき風情《ふぜい》とては露ほどもなく、男子と漢籍の講莚《こうえん》に列してなお少しも羞《はずか》しと思いし事なし。さるからに、母上は妾の将来を気遣う余り、時々「恋せずば人の心はなからまし、物の哀れはこれよりぞ知る」という古歌を読み聞かせては、妾の所為《しょい》を誡《いまし》め給いしほどなれば、幼友達《おさなともだち》の皆|人《ひと》に嫁《か》して、子を挙《あ》ぐる頃となりても、妾のみは、いまだあるべきものをだに見ざるを知りて、母上はいよいよ安からず、もしくば世にいう石女《いしめ》の類《たぐい》にやなど思い悩み給いにき。しかるに今獄中にありて或る日突然その事あり、その時の驚きは今更に言うの要なかるべし。妾の容子《ようす》の常になく
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