して帰署したりと思うやがての事、彼女は願いの如く、妾の室に帰り来りぬ。あとにて聞けばこの事の真相こそ実《げ》に筆にするだに汚《けが》らわしき限りなれ。今日《こんにち》は知らずその当時は長き年月の無聊《むりょう》の余りにやあらん、男囚《だんしゅう》の間には男色《だんしょく》盛んに行われ、女囚もまた互いに同気《どうき》を求めて夫婦の如き関係を生じ、両女の中の割合に心|雄々《おお》しきは夫《おっと》の如き気風となり、優《やさ》しき方は妻らしく、かくて不倫《ふりん》の愛に楽しみ耽《ふけ》りて、永年《えいねん》の束縛を忘れ、一朝変心する者あれば、男女間における嫉妬《しっと》の心を生じて、人を傷《そこな》い自ら殺すなどの椿事《ちんじ》を惹《ひ》き起すを常としたりき。現に厠《かわや》に入りて、職業用の鋏刀《はさみ》もて自殺を企《くわだ》てし女囚をば妾も目《ま》の当りに見て親しく知れりき。されば無智蒙昧《むちもうまい》の監守どもが、妾の品性を認め得ず、純潔なる慈《いつく》しみの振舞を以て、直ちに破倫《はりん》非道の罪悪と速断しけるもまた強《あなが》ちに無理ならねど、さりとては余りに可笑《おか》しく、腹
前へ
次へ
全171ページ中78ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
福田 英子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング