なりて、他所目《よそめ》には如何《いか》に見えけん、当時妾はひたすらに虚栄心功名心にあくがれつつ、「ジャンダーク」を理想の人とし露西亜《ロシア》の虚無党をば無二《むに》の味方と心得たる頃なれば、両人《ふたり》の交情《あいだ》の如何に他所目《よそめ》には見ゆるとも、妾の与《あずか》り知らざる所、将《は》た、知らんとも思わざりし所なりき。妾はただ彼女の親切に感じ自分も出来得る限り彼に教えて彼の親切に報《むく》いんことを勉《つと》めけるに、ある日看守来りて、突然彼女に向かい所持品を持ち監外に出《い》でよという。さては無罪の宣告ありて、今日こそ放免せらるるならめ、何にもせよ嬉しきことよと、喜ぶにつけて別れの悲しく、互いに暗涙《あんるい》に咽《むせ》びけるに、さはなくて彼女は妾らの室を隔《へだ》つる、二間《けん》ばかりの室に移されしなりき。彼女の驚きは妾と同じく余りの事に涙も出でず、当局者の無法もほどこそあれと、腹立たしきよりは先ず呆《あき》れられて、更に何故《なにゆえ》とも解《と》きかねたる折から、他《た》の看守来りて妾に向かい、「景山《かげやま》さん今夜からさぞ淋《さび》しかろう」と冷笑《あ
前へ 次へ
全171ページ中75ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
福田 英子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング