をば徒《いたずら》に未決監に送り来れる者なりとよ。この事情を聞きて、妾は同情の念とどめがたく、典獄の巡回あるごとに、その状を具陳して、婦人のために寃枉《えんおう》を訴えけるに、その効《しるし》なりしや否《いな》やは知らねど、妾が三重県に移りける後《のち》、婦人は果して無罪の宣告を受けたりとの吉報《きっぽう》を耳にしき。しかるにかくこの婦人と相親しめりし事の、意外にも奇怪|千万《せんばん》なる寃罪《えんざい》の因となりて、一時妾と彼女と引き離されし滑稽談《こっけいだん》あり、当時の監獄の真相を審《つまび》らかにするの一例ともなるべければ、今その大概を記して、大方《たいほう》の参考に供せん。
五 不思議の濡衣《ぬれぎぬ》
妾《しょう》が彼女を愛し、彼女が妾を敬慕《けいぼ》せるは上《かみ》に述べたるが如き事情なり。世には淫猥《いんわい》無頼《ぶらい》の婦人多かるに、独《ひと》り彼女の境遇のいと悲惨なるを憐《あわ》れむの余り、妾の同情も自然彼女に集中して、宛然《さながら》親の子に対するが如き有様なりしかど、あたかも同じ年頃の、親子といいがたきは勿論《もちろん》、また兄弟姉妹の間柄とも異
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