よき一婦人
ここにおかしきは妾と室を共にせる眉目|麗《うるわ》しき一婦人《いっぷじん》あり、天性|賤《いや》しからずして、頻《しき》りに読書習字の教えを求むるままに、妾もその志に愛《め》でて何角《なにかと》教え導きけるに、彼はいよいよ妾を敬《うやま》い、妾はまた彼を愛して、果《はて》は互いに思い思われ、妾の入浴するごとに彼は来りて垢《あか》を流しくれ、また夜に入《い》れば床《とこ》を同じうして寒天《さむぞら》に凍《こお》るばかりの蒲団《ふとん》をば体温にて暖め、なお妾と互い違いに臥《ふ》して妾の両足《りょうそく》をば自分の両|腋下《えきか》に夾《はさ》み、如何《いか》なる寒気《かんき》もこの隙《すき》に入ることなからしめたる、その真心の有りがたさ。この婦人は大阪の生れにて先祖は相当に暮したる人なりしが、親の代《よ》に至りて家道《かどう》俄《にわか》に衰《おとろ》え、婦人は当地の慣習とて、ある紳士の外妾となりしに、その紳士は太く短こう世を渡らんと心掛くる強盗の兇漢《きょうかん》なりしかば、その外妾となれるこの婦人も定めてこの情を知りつらんとの嫌疑を受けつ、既に一年有余の永《なが》き日
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