うじて波止場《はとば》に到り、それより船に移し入れらる。巡査の護衛せるを見て、乗客は胆《きも》をつぶしたらんが如く、眼《まなこ》を円《つぶ》らにして、殊《こと》に女の身の妾《しょう》を視《み》る。良心に恥ずる所なしとはいいながら、何とやら、面伏《おもぶ》せにて同志とすら言葉を交《かわ》すべき勇気も失《う》せ、穴へも入りたかりし一昼夜を過ぎて、漸《ようや》く神戸に着く。例の如く諸所の旅舎より番頭小僧ども乗り込み来りて、「ヘイ蓬莱屋《ほうらいや》で御座《ござ》い、ヘイ西村で御座い」と呼びつつ、手に手に屋号の提燈《ちょうちん》をひらめかし、われらに向かいて頻《しき》りに宿泊を勧めたるが、ふと巡査の護衛するを見、また腰縄のつけるに一驚《いっきょう》を喫《きっ》して、あきれ顔に口を噤《つぐ》めるも可笑《おか》しく、かつは世の人の心の様《さま》も見え透《す》きて、言うばかりなく浅まし。
その夜は大阪府警察署の拘留場《こうりゅうば》に入りたるに、船中の疲労やら、心痛やらにて心地悪《ここちあ》しく、最《い》とど苦悶を感じおりしに、妾を護衛せる巡査は両人にて、一人は五十未満、他は二十五、六歳ばかりなる
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