ながら、慣るるにつれて、身の苦艱《くげん》の薄らぐままに、ひたすら想い出でらるるは、故郷の父母さては東京、大阪の有志が上なり、一念ここに及ぶごとに熱涙の迸《ほとばし》るを覚ゆるなりき。
翌朝食事終りて後《のち》、訊問所に引き出《いだ》されて、住所、職業、身分、年齢、出生《しゅっしょう》の地の事ども訊問せられ、遂《つい》にこの度《たび》当地に来りし理由を質《ただ》されて、ただ漫遊なりと答えけるに、かく汝《なんじ》らを拘引《こういん》するは、確乎《かっこ》たる見込《みこみ》ありての事なり、未練らしう包み隠さずして、有休《ありてい》に申し立ててこそ汝らが平生《へいぜい》の振舞にも似合わしけれとありければ、尤《もっと》もの事と思い、終《つい》に述懐書にあるが如き意見にて大事に与《くみ》せる事を申し立てぬ。
三 大阪護送
警察署にての訊問《じんもん》果てし後《のち》、大阪に護送せらるることとなり、夜《よ》の八、九時頃にやありけん、珠数繋《ずずつな》ぎにて警察の門を出でたり。迅《はや》きようにても女の足の後《おく》れがちにて、途中は左右の腰縄《こしなわ》に引き摺《ず》られつつ、辛《かろ》
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