宿屋よりも獄中の夢安く、翌朝|目覚《めざ》めしは他の監房にて既に食事の済《す》みし頃なりき。
二 同志の顔
先にここに入りし際は、穴のように思いしに、夜明けて見れば天井《てんじょう》高く、なかなか首をつるべきかかりもなし。窓はほんの光線取《あかりと》りにして、鉄の棒を廻《めぐ》らし如何《いか》なる剛力《ごうりき》の者来ればとて、破牢《はろう》など思いも寄らぬ体《てい》、いと堅牢なり。水を乞うて、手水《ちょうず》をつかえば、やがて小《ち》さき窓より朝の物を差し入れられぬ。到底|喉《のんど》を下《くだ》るまじと思いしに、案外にも味《あじ》わい旨《よ》くて瞬間に喫《た》べ尽しつ、われながら胆太《きもふと》きに呆《あき》れたり。食事終りて牢内を歩むに、ふと厚き板の間の隙《すき》より、床下《ゆかした》の見ゆるに心付き、試みに眸《ひとみ》を凝《こ》らせば、アア其処《そこ》に我が同志の赤毛布《あかげっと》を纏《まと》いつつ、同じく散歩するが見えたり。妾と相隣りて入牢せるは、内藤六四郎《ないとうろくしろう》氏の声なり。稲垣、古井はいずれの獄に拘留せられしにやあらん。地獄の裡《うち》に堕《お》ち
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