、彼ら同志にして、果して遊廓に遊ばんほどの余資《よし》あらば、これをば借りて、途《みち》すがら郷里に立ち寄り、切《せ》めては父母|兄弟《けいてい》に余所《よそ》ながらの暇乞《いとまご》いもなすべかりしになど、様々の思いに耽《ふけ》りて、睡るとにはあらぬ現心《うつつごころ》に、何か騒がしき物音を感じぬ。何気《なにげ》なく閉《と》じたる目を見開けば、こはそも如何《いか》に警部巡査ら十数名手に手に警察の提燈《ちょうちん》振り照らしつつ、われらが城壁と恃《たの》める室内に闖入《ちんにゅう》したるなりけり。アナヤと驚き起《た》たんとすれば、宿屋の主人来りて、旅客|検《しらべ》なりという。さてこそ大事去りたれと、覚悟はしたれど、これ妾|一人《いちにん》の身の上ならねば、出来得る限りは言いぬけんと、巡査の問いに答えて、更に何事をも解せざる様《さま》を装い、ただ稲垣と同伴せる旨《むね》をいいしに、警部は首肯《うなず》きて、稲垣には縄《なわ》をかけ、妾をば別に咎《とが》めざるべき模様なりしに、宵《よい》のほど認《したた》め置きし葉石への手書《てがみ》の、寝床の内より現われしこそ口惜しかりしか。警部の温顔
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