きっ》しつつ、午刻《ひる》のほどより丸山に赴《おもむ》ける稲垣の今に至りてなお帰らず、彼は一行の渡航費を持ちて行きたるなれば、その帰るまではわれら一歩《ひとあし》も他《た》に移す能《あた》わず、特《こと》に差し当りて佐賀に至り、江藤新作《えとうしんさく》氏に面したき要件の出来たるに、早く帰宿してくれずやという。その夜十時頃までも稲垣は帰り来らず、もはや詮方《せんかた》なしとて、それぞれ臥床《ふしど》に入りしが、妾は渡韓の期も、既に今明日《こんみょうにち》に迫りたり、いざさらば今回の拳につきて、決心の事情を葉石《はいし》に申し送り、遺憾《いかん》の念なき旨を表し置かんと、独り燈下に細書《さいしょ》を認《したた》め、ようよう十二時頃書き終りて、今や寝《しん》に就かんとするほど、稲垣は帰り来りぬ。
十一 発覚|拘引《こういん》
古井は直ちに起きて佐賀へ出立の用意を急ぎ、真夜中宿を立ち出でたり。残るは稲垣と妾とのみ、稲垣は遊び疲れの出でたればにや、横になるより快《こころよ》く睡《ねむ》りけるが、妾は一度《ひとたび》渡韓《とかん》せば、生きて再び故国《ここく》の土を踏むべきに非《あら》ず
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