「国を去って京に登る愛国の士、心を痛ましむ国会開設の期」雲や霞《かすみ》もほどなく消えて、民権自由に、春の時節がおっつけ来るわいな。」
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尋常の大津絵ぶしと異なり、人々民権論に狂《きょう》せる時なりければ、妾《しょう》の月琴《げっきん》に和してこれを唄《うた》うを喜び、その演奏を望まるる事しばしばなりき。これより先、十五歳の時より、妾は女の心得なかるべからずとて、茶の湯、生花《いけばな》、裁縫、諸礼、一式を教えられ、なお男子の如く挙動《ふるま》いし妾を女子らしからしむるには、音楽もて心を和《やわ》らぐるに若《し》かずとて、八雲琴《やくもごと》、月琴などさえ日課の中に据えられぬ。されば妾は毎日の修業それよりそれと夜《よ》に入るまでほとんど寸暇とてもあらざるなりき。
三 縁談《えんだん》
十六歳の暮に、ある家より結婚の申し込みありしかど、理想に適《かな》わずとて、謝絶しければ、父母も困《こう》じ果てて、ある日|妾《しょう》に向かい、家の生計意の如くならずして、倒産の憂《う》き目さえやがて落ちかからん有様なるに、御身《おんみ》とて何時《いつ》までか父母の家に
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