|対手《あいて》にやはり紙屑拾いをばその日の業《わざ》となしたりしに、天道《てんどう》さまも聞えませぬ、貧乏こそすれ、露《つゆ》いささか悪《あ》しき道には踏み込まざりし私《わたくし》母子《おやこ》に病を降《くだ》して、遂《つい》に最愛の者を奪い、かかる始末に至らしむるとは、何たる無情のなされ方《かた》ぞなど、果《はて》しもなき涙に掻《か》き暮れぬ。妾は既にその奇遇に驚き、またこの憐れなる人の身の上に泣きてありしが、かくてあるべきならねば、他《た》の囚徒と共にいろいろと慰めつつ、この上は一日も早く出獄して良人《おっと》や子供の菩提《ぼだい》を弔《とむら》い給えなど力を添えつ。一週間ばかりにして彼は既決に編入せられぬ。されどひたすらに妾との別れを悲しみ、娑婆《しゃば》に出でて再び餓《うえ》に泣かんよりは、今少し重き罪を犯し、いつまでもあなた様のお側《そば》にてお世話になりたしなど、心も狂おしう打ち歎《かこ》つなりき。
実《げ》にや人の世の苦しさは、この心弱き者をして、なかなかに監倉の苦を甘んぜしめんとするなり、これをしも誰か悲惨ならずとはいうや。当局者は能《よ》く罪を罰するを知れり、乞い
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