ぎ》を鳴らして来り、それ新入《しんにゅう》があるぞといいつつ、一人の垢染《あかじ》みたる二十五、六の婦人を引きて、今や監倉の戸を開かんとせし時、婦人は監外より妾の顔を一目見て、物をもいわず、わっとばかりに泣き出しけり。何故《なにゆえ》とは知るよしもなけれど、ただこの監獄の様《さま》の厳《いか》めしう、怖《おそ》ろしきに心|怯《おび》えて、かつはこれよりの苦を偲《しの》び出でしにやあらんなど、大方《おおかた》に推《お》し測《はか》りて、心|私《ひそ》かに同情の涙を湛《たた》えしに、婦人はやがて妾に向かいて、あなた様には御覚《おんおぼ》えなきか知らねど、私はかつて一日とてもあなた様を思い忘れしことなし。御顔《おんかお》も能《よ》く覚えたり。あなた様は、先年八軒屋の宿屋にて、女乞食に金員を恵まれし事あるべし、その時の女乞食こそは私なれ、何の因縁《いんねん》にてか、再びかかる処にて御目《おんめ》にはかかりたるぞ、これも良人《おっと》や小供の引き合せにて私の罪を悔《く》いさせ、あなた様に先年の御礼《おんれい》を申し上げよとの事ならん。あなた様が憐《あわ》れみて五十銭を恵み給いし小供は、悪性の疱瘡
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