たれ》かはこれをさるものと思うべき。世にはこれよりも更に大《だい》なる悪、大なる罪を犯しながら白昼大手を振りて、大道《だいどう》を濶歩《かっぽ》する者も多かるに、大《だい》を遺《わす》れて小《しょう》を拾う、何たる片手落ちの処置ぞやなど感ぜし事も数※[#二の字点、1−2−22]《しばしば》なりき。穴賢《あなかしこ》、この感情は、一度《ひとたび》入獄の苦を嘗《な》めし人ならでは語るに足らず、語るも耳を掩《おお》わんのみ。かくて妾《しょう》は世の人より大罪人大悪人と呼ばるる無頼《ぶらい》の婦女子と室を同じうし、起臥《きが》飲食を共にして、ある時はその親ともなり、ある時はその友ともなりて互いに睦《むつ》み合うほどに、彼らの妾を敬慕すること、かのいわゆる娑婆《しゃば》における学校教師と子弟との情は物かは、倶《とも》にこの小天地に落ちぬるちょう同情同感の力もて、能《よ》く相一致せる真情は、これを肉身に求めてなお得がたき思いなりき。かかるほどに、獄中常に自《おの》ずからの春ありて、靄然《あいぜん》たる和気《わき》の立ち籠《こ》めし翌年四、五月の頃と覚ゆ、ある日看守は例の如く監倉《かんそう》の鍵《か
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