けれども、なおこの乞食には優《まさ》るべし、思えば気の毒の母よ子よと惻隠《そくいん》の心|禁《とど》めがたくて、覚えず階上より声をかけつつ、妾には当時大金なりける五十銭紙幣に重錘《おもり》をつけて投げ与えけるに、彼女は何物が天より降《ふ》り来りしとように驚きつつ、拾いとりてまた暫《しば》し躊躇《ためら》いたり。妾は重《かさ》ねて、それを小供に与えよと言いけるに、始めて安堵《あんど》したるらしく、幾度《いくたび》か押し戴《いただ》くさまの見るに堪えず、障子をしめて中《うち》に入り、暫《しばら》くして外出せんとしたるに、宿の主婦は訝《いぶか》りつつ、「あんたはんじゃおまへんか先刻《さっき》女の乞食にお金をやりはったのは」という。さなりと妾は首肯《うなず》きたるに、「いんまさき小供を負《お》ぶって、涙を流しながら、ここの女のお客はんが裏の二階からおぜぜを投げてくだはったさかい、ちょっとお礼に出ました、お名前を聞かしてくれといいましたが、乞食にお名まえを聞かす事かいと思いましたさかいに、ただ伝えてやろと申してかえしました、まあとんだ御散財《ごさんざい》でおました」という。慈善は人のためならず、
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