当時熱心なる自由党員なりしが、今は内務省|検疫官《けんえきかん》として頗《すこぶ》る精励《せいれい》の聞えあるよし。先年|板垣伯《いたがきはく》の内務大臣たりし時、多年国事に奔走《ほんそう》せし功を愛《め》でられてか内務省の高等官となり、爾来《じらい》内閣の幾変遷《いくへんせん》を経《へ》つつも、専門技術の素養ある甲斐《かい》には、他の無能の豪傑《ごうけつ》連とその撰《せん》を異《こと》にし、当局者のために頗《すこぶ》る調法がられおるとなん。

 三 八軒屋

 大阪なる安藤氏の宅に寓居《ぐうきょ》すること数日《すじつ》にして、妾《しょう》は八軒屋という船付《ふなつ》きの宿屋に居《きょ》を移し、ひたすらに渡韓の日を待ちたりしに、一日《あるひ》磯山《いそやま》より葉石《はいし》の来阪《らいはん》を報じ来《きた》り急ぎその旅寓に来れよとの事に、何事かと訝《いぶか》りつつも行きて見れば、同志ら今や酒宴《しゅえん》の半《なか》ばにて、酌《しゃく》に侍《じ》せる妓《ひと》のいと艶《なま》めかしうそうどき立ちたり。かかる会合《まどい》に加わりし事なき身《み》の如何《いか》にしてよからんかとただ恐縮
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