や大事に至らんとせしを、安藤氏来りて、直ちに消し止めたり、遉《さす》がは多年薬剤を研究し薬剤師の免状を得て、その当時|薬舗《やくほ》を営み居たる甲斐《かい》ありと人々皆氏を称讃したりき。さりながら今より思い合わすれば、如何《いか》に盲目《めくら》蛇《へび》物に怖《お》じずとはいいながら、かかる危険|極《きわ》まれる薬品を枕にして能《よ》くも安々と睡《ねむ》り得しことよと、身の毛を逆竪《さかだ》つばかりなり。殊《こと》に神戸《こうべ》停車場《ステーション》にて、この鞄《かばん》を秤《はかり》にかけし時の如き、中にてがらがらと音のしたるを駅員らの怪しみて、これは如何《いか》なる品物なりやと問われしに傷持つ足の、ハッと驚きしかど、さあらぬ体《てい》にて、田舎への土産《みやげ》にとて、小供の玩具《おもちゃ》を入れ置きたるに、車の揺れの余りに烈《はげ》しかりしため、かく壊《こわ》されしことの口惜しさよと、わざわざ振り試みるに、駅夫も首肯《うなず》きて、強《し》いては開き見んともせざりき。今にして当時を顧みれば、なお冷汗《ひやあせ》の背を湿《うる》おすを覚ゆるぞかし、安藤氏は代々《よよ》薬屋にて、
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