八年の十月なり。

 二 鞄《かばん》の爆発物

 同伴者は新井章吾《あらいしょうご》、稲垣示《いながきしめす》の両氏なりしが、壮士連の中には、三々五々|赤毛布《あかげっと》にくるまりつつ船中に寝転ぶ者あるを見たりき。同伴者は皆互いに見知らぬ風《ふう》を装《よそお》えるなり、その退屈さと心配さとはなかなか筆紙に尽しがたし。妾がこの行に加わりしは、爆発物の運搬に際し、婦人の携帯品として、他の注目を避くることに決したるより、乃《すなわ》ち妾《しょう》をして携帯の任に当らしめたるなり。かくて妾は爆発物の原料たる薬品|悉皆《しっかい》を磯山の手より受け取り、支那鞄《しなかばん》に入れて普通の手荷物の如くに装い、始終|傍《かたわ》らに置きて、ある時はこれを枕に、仮寝《うたたね》の夢を貪《むさぼ》りたりしが、やがて大阪に着しければ、安藤久次郎《あんどうきゅうじろう》氏の宅にて同志の人を呼び窃《ひそ》かに包み替えんとするほどに、金硫黄《きんいおう》という薬の少し湿《しめ》りたるを発見せしかば、鑵《かん》より取り出して、暫《しば》し乾《ほ》さんとせしに、空気に触《ふ》るるや否や、一面に青き火となり、今
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