おもむ》ろに身の振り方を定めんものと今度漸く出奔《しゅっぽん》の期を得たるなり。そは両三日前妹が中元《ちゅうげん》の祝いにと、他《た》より四、五円の金をもらいしを無理に借り受け、そを路費《ろひ》として、夜半《やはん》寝巻のままに家を脱《ぬ》け出《い》で、これより耶蘇《ヤソ》教に身を委《ゆだ》ね神に事《つか》えて妾《しょう》が志を貫《つらぬ》かんとの手紙を残して、かくは上京したるなれば、妾はもはや同志の者にあらず、約に背《そむ》くの不義を咎《とが》むることなく長く交誼《こうぎ》を許してよという。その情義の篤《あつ》き志を知りては、妾も如何《いか》で感泣《かんきゅう》の涙を禁じ得べき。アア堂々たる男子にして黄金のためにその心身を売り恬《てん》として顧みざるの時に当り、女史の高徳義心一身を犠牲として兄に秘密を守らしめ、自らは道を変えつつもなお人のため国のために尽さんとは、何たる清き心地《ここち》ぞや。妾が敬慕《けいぼ》の念はいとど深くなりゆきたるなり。その日は終日|女梁山泊《おんなりょうざんぱく》を以て任ずる妾の寓所にて種々《いろいろ》と話し話され、日の暮るるも覚ええざりしが、別れに臨《のぞ
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