人の生徒を自宅に集め、学校の余科を教授して、生徒をして一年の内二階級の試験を受くることを得せしめしかば、大いに父兄の信頼を得て、一時はおさおさ公立学校を凌《しの》がんばかりの隆盛を致せり。
学校に通う途中、妾は常に蛮貊《わんぱく》小僧らのために「マガイ」が通る「マガイ」が通ると罵《ののし》られき。この評言の適切なる、今こそ思い当りたれ、当時|妾《しょう》は実に「マガイ」なりしなり。「マガイ」とは馬爪《ばづ》を鼈甲《べっこう》に似たらしめたるにて、現今の護謨《ゴム》を象牙《ぞうげ》に擬《ぎ》せると同じく似て非なるものなれば、これを以て妾を呼びしことの如何《いか》ばかり名言なりしかを知るべし。今更恥かしき事ながら妾はその頃、先生たちに活発の子といわれし如く、起居《ききょ》振舞《ふるまい》のお転婆《てんば》なりしは言うまでもなく、修業中は髪を結《ゆ》う暇《いとま》だに惜《お》しき心地《ここち》せられて、一向《ひたぶる》に書を読む事を好みければ、十六歳までは髪を剪《き》りて前部を左右に分け、衣服まで悉《ことごと》く男生《だんせい》の如くに装《よそお》い、加《しか》も学校へは女生と伴《ともの》
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