に政権の独占を憤《いきどお》れる民権自由の叫びに狂せし妾は、今は赤心《せきしん》資本の独占に抗して、不幸なる貧者《ひんしゃ》の救済に傾《かたむ》けるなり。妾が烏滸《おこ》の譏《そし》りを忘れて、敢《あ》えて半生の経歴を極《きわ》めて率直に少しく隠す所なく叙《じょ》せんとするは、強《あなが》ちに罪滅ぼしの懺悔《ざんげ》に代《か》えんとには非《あら》ずして、新たに世と己れとに対して、妾のいわゆる戦いを宣言せんがためなり。
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第一 家庭
一 贋《まが》いもの
妾《しょう》は八、九歳の時、屋敷内《やしきうち》にて怜悧《れいり》なる娘と誉《ほ》めそやされ、学校の先生たちには、活発なる無邪気なる子と可愛がられ、十一、二歳の時には、県令学務委員等の臨《のぞ》める試験場にて、特に撰抜せられて『十八史略』や、『日本外史』の講義をなし、これを無上の光栄と喜びつつ、世に妾ほど怜悧なる者はあるまじなど、心|私《ひそ》かに郷党《きょうとう》に誇りたりき。
十五歳にして学校の助教諭を托せられ、三円の給料を受けて子弟を訓導するの任に当り、日々勤務の傍《かたわ》ら、復習を名として、数十
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