、わが苦悶の回顧。
顧《おも》えば女性の身の自《みずか》ら揣《はか》らず、年|少《わか》くして民権自由の声に狂《きょう》し、行途《こうと》の蹉跌《さてつ》再三再四、漸《ようや》く後《のち》の半生《はんせい》を家庭に托《たく》するを得たりしかど、一家の計《はかりごと》いまだ成らざるに、身は早く寡《か》となりぬ。人の世のあじきなさ、しみじみと骨にも透《とお》るばかりなり。もし妾のために同情の一掬《いっきく》を注《そそ》がるるものあらば、そはまた世の不幸なる人ならずばあらじ。
妾《しょう》が過ぎ来《こ》し方《かた》は蹉跌《さてつ》の上の蹉跌なりき。されど妾は常に戦《たたか》えり、蹉跌のためにかつて一度《ひとたび》も怯《ひる》みし事なし。過去のみといわず、現在のみといわず、妾が血管に血の流るる限りは、未来においても妾はなお戦わん。妾が天職は戦いにあり、人道の罪悪と戦うにあり。この天職を自覚すればこそ、回顧の苦悶、苦悶の昔も懐《なつ》かしくは思うなれ。
妾の懺悔《ざんげ》、懺悔の苦悶これを愈《いや》すの道は、ただただ苦悶にあり。妾が天職によりて、世と己《おの》れとの罪悪と戦うにあり。
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