これより先|妾《しょう》は坂崎氏の家にありて、一心勉学の傍《かたわ》ら、何《なに》とかして同志の婦女を養成せんものと志し、不恤緯会社なるものを起して、婦人に独立自営の道を教え、男子の奴隷たらしめずして、自由に婦女の天職を尽さしめ、この感化によりて、男子の暴横卑劣を救済せんと欲したりしかば、富井於菟《とみいおと》女史と謀《はか》りて、地方有志の賛助を得、資金も現に募集の途《みち》つきて、ゆくゆくは一大団結を組織するの望みありき。しかるに事は志と齟齬《そご》して、富井女史は故郷に帰るの不幸に遇《あ》えり。ついでに女史の履歴を述べて見ん。

 六 於菟《おと》女史

 富井於菟女史は播州《ばんしゅう》竜野《たつの》の人、醤油《しょうゆ》屋に生れ、一人《いちにん》の兄と一人《いちにん》の妹とあり。幼《おさなき》より学問を好みしかば、商家には要なしと思いながらも、母なる人の丹精《たんせい》して同所の中学校に入れ、やがて業を卒《お》えて後《のち》、その地の碩儒《せきじゅ》に就きて漢学を修め、また岸田俊子《きしだとしこ》女史の名を聞きて、一度《ひとたび》その家の学婢《がくひ》たりしかど、同女史よ
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