り漢学の益を受くる能《あた》わざるを知ると共に、女史が中島信行《なかじまのぶゆき》氏と結婚の約成りし際なりしかば、暫時《ざんじ》にしてその家を辞し坂崎氏の門に入りて、絵入《えいり》自由燈《じゆうのともしび》新聞社の校正を担当し、独立の歩調を取られき。我が国の女子にして新聞社員たりしは、実に於菟《おと》女史を以て嚆矢《こうし》とすべし。かくて女史は給料の余りを以て同志の婦女を助け、共に坂崎氏の家に同居して学事に勉《つと》めしめ、自ら訓導の任に当りぬ。妾の坂崎氏を訪うや、女史と相見て旧知の感あり、遂《つい》に姉妹の約をなし生涯相助けんことを誓いつつ、万《よろず》秘密を厭《いと》い善悪ともに互いに相語らうを常とせり。されば妾は朝鮮変乱よりして、東亜の風雲|益《ますます》急なるよしを告げ、この時この際、婦人の身また如何《いか》で空《むな》しく過すべきやといいけるに、女史も我が当局者の優柔不断を慨《なげ》き、心|私《ひそ》かに決する処あり、いざさらば地方に遊説して、国民の元気を興《おこ》さんとて、坂崎氏には一片《いっぺん》の謝状を遺《のこ》して、妾と共に神奈川地方に奔《はし》りぬ。実に明治十八年
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