また端《はし》たなしや。さあれ当時の境遇の単純にして幼かりしは、あくまで浮世の浪《なみ》に弄《あそ》ばれて、深く深く不遇の淵底《えんてい》に沈み、果ては運命の測《はか》るべからざる恨《うら》みに泣きて、煩悶《はんもん》遂《つい》に死の安慰を得べく覚悟したりしその後《のち》の妾に比して、人格の上の差異|如何《いか》ばかりぞや、思うてここに至るごとに、そぞろに懐旧の涙《なんだ》の禁《とど》めがたきを奈何《いかに》せん。かく妙齢の身を以て、一念自由のため、愛国のために、一命を擲《なげう》たんとしたりしは、一《いつ》は名誉の念に駆《か》られたる結果とはいえ、また心の底よりして、自由の大義を国民に知らしめんと願うてなりき。当時|拙作《せっさく》あり、
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愛国《あいこくの》丹心《たんしん》万死《ばんし》軽《かろし》 剣華《けんか》弾雨《だんう》亦《また》何《なんぞ》驚《おどろかん》
誰《たれか》言《いう》巾幗《きんこく》不成事《ことをなさずと》 曾《かつて》記《きす》神功《じんごう》赫々《かくかくの》名《な》
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五 不恤緯《ふじゅっい》会社
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