なりき。妾はここに自白す、妾は今貴族豪商の驕傲《きょうごう》を憂うると共に、また昔時《せきじ》死生を共にせし自由党有志者の堕落軽薄を厭《いと》えり。我ら女子の身なりとも、国のためちょう念は死に抵《いた》るまでも已《や》まざるべく、この一念は、やがて妾を導きて、頻《しき》りに社会主義者の説を聴くを喜ばしめ、漸《ようや》くかの私欲私利に汲々《きゅうきゅう》たる帝国主義者の云為《うんい》を厭わしめぬ。
 ああ学識なくして、徒《いたずら》に感情にのみ支配せられし当時の思想の誤れりしことよ。されどその頃の妾は憂世《ゆうせい》愛国の女志士《じょしし》として、人も容《ゆる》されき、妾も許しき。姑《しば》らく女志士として語らしめよ。

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   獄中《ごくちゅう》述懐《じゅっかい》([#ここから割り注]明治十八年十二月十九日大阪未決監獄において、時に十九歳[#ここで割り注終わり])
元来|儂《のう》は我が国民権の拡張せず、従って婦女が古来の陋習《ろうしゅう》に慣れ、卑々屈々《ひひくつくつ》男子の奴隷《どれい》たるを甘《あま》んじ、天賦《てんぷ》自由の権利あるを知らず己《おの》れがた
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