の書窓《しょそう》を驚かしぬ。我が当局の軟弱無気力にして、内は民衆を抑圧するにもかかわらず、外《ほか》に対しては卑屈これ事とし、国家の恥辱《ちじょく》を賭《と》して、偏《ひとえ》に一時の栄華を衒《てら》い、百年の患《うれ》いを遺《のこ》して、ただ一身の苟安《こうあん》を冀《こいねが》うに汲々《きゅうきゅう》たる有様を見ては、いとど感情にのみ奔《はし》るの癖《くせ》ある妾は、憤慨の念燃ゆるばかり、遂《つい》に巾幗《きんこく》の身をも打ち忘れて、いかでわれ奮い起ち、優柔なる当局および惰民《だみん》の眠りを覚《さま》しくれでは已《や》むまじの心となりしこそ端《はし》たなき限りなりしか。
四 当時の所感
ああかくの如くにして妾《しょう》は断然書を擲《なげう》つの不幸を来《きた》せるなりけり。当時妾の感情を洩《も》らせる一片《いっぺん》の文《ぶん》あり、素《もと》より狂者《きょうしゃ》の言に近けれども、当時妾が国権主義に心酔し、忠君愛国ちょう事に熱中したりしその有様を知るに足るものあれば、叙事の順序として、左《さ》に抜萃《ばっすい》することを許し給え。こは大阪未決監獄入監中に起草せるもの
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