きに非《あら》ずと思い返し、亡夫の家を守りて、その日の糊口《ここう》に苦しみ居たるを、友人知己は見るに忍びず、わざわざ実家に舅姑《きゅうこ》を訪《と》いて遺族の手当てを請求しけるに、彼らは少しの同情もなく、漸《ようや》く若干の小遣い銭《せん》を送らんと約しぬ。かかる有様なれば、妾は嬰児《えいじ》を哺育《ほいく》するの外《ほか》、なお二児の教育の忽《ゆるが》せになしがたきさえありて、苦悶《くもん》懊悩《おうのう》の裡《うち》に日を送る中《うち》、神経衰弱にかかりて、臥褥《がじょく》の日多く、医師より心を転ぜよ、しからざれば、健全に復しがたからんなどの注意さえ受くるに至りぬ。死はむしろ幸いならん、ただ子らのなお幼くして、妾《しょう》もしあらずば、如何《いか》になり行くらん。さらば今一度元気を鼓舞して、三児を健全に養育してこそ、妾の責任も全く、良人の愛に酬《むく》ゆるの道も立てと、自ら大いに悔悟《かいご》して、女々《めめ》しかりし心恥かしく、ひたすらに身の健康を祈りて、療養怠りなかりしに、やがて元気も旧に復し、浮世の荒浪に泳ぎ出づるとも、決して溺《おば》れざるべしとの覚悟さえ生じければ、亡夫
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