筵《むしろ》のそれよりも心苦しく、仮《たと》い一旦《いったん》の憤《いきどお》りを招かば招け、かえって互いのためなるべしとて、ある日幼児を背負いて、窃《ひそ》かに帰京せんと謀《はか》りけるに、中途にして親族の人に支えられ、その目的を達する能《あた》わざりしが、彼も妾の意を察して、一家の和合望みなきを覚りしと見え、今回は断然|廃嫡《はいちゃく》の事を親族間に請求し、自分は別居して前途の方針を定めんとの事に、妾もこれに賛して、十万の資産何かあらんと、相談の上、妾|先《ま》ず帰京して彼の決行果して成就《じょうじゅ》するや否やを気遣いしに、一カ月を経て親族会議の結果嫡男哲郎を祖父母の膝下《しっか》に留め、彼は出京して夫婦始めて、愁眉《しゅうび》を開き、暖かき家庭を造り得たるを喜びつつ、いでや結婚当時の約束を履行《りこう》せん下心なりしに、悲しい哉《かな》、彼は百事の失敗に撃たれて脳の病《やまい》を惹《ひ》き起し、最後に出京せし頃には病既に膏肓《こうこう》に入りて、ほとんど治《じ》すべからざるに至り、時々《じじ》狂気じみたる挙動さえ著《いちじる》しかりければ、知友にも勧誘を乞いて、鎌倉、平塚《ひ
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