されば彼はこれに反して、私《ひそ》かに来らぬこそ好《よ》けれと言い送れり。そは妾にして仮《よ》し彼の家の如き冷酷の家庭に入《い》るとも到底長く留《とど》まる能《あた》わざるを予知すればなりき。妾とてもまた衣裳や金の持参なくして、遥《はる》かに身体《からだ》一つを投ずるは、他の家ならば知らず、この場合においては、徒《いたずら》に彼を悩ますの具となるに過ぎざることを知りければ、始めは固く辞《いな》みて行かざりしに、親族は躍気《やっき》になりて来郷を促し、子供のために、枉《ま》げて来り給えなどいと切《せ》めて勧めけるに、良人《りょうじん》と児《じ》との愛に引かれて、覚束《おぼつか》なくも、舅姑《きゅうこ》の機嫌《きげん》を取り、裁縫やら子供の世話やらに齷齪《あくせく》することとなりたるぞ、思えば変る人の身の上なりける。
十 ああ死別
されど妾の如き異分子の、争《いか》でか長くかかる家庭に留まり得べき。特《こと》に舅姑《きゅうこ》の福田に対する挙動の、如何《いか》に冷《ひや》やかにかつ無残《むざん》なるかを見聞くにつけて、自ら浅ましくも牛馬同様の取り扱いを受くるを覚《さと》りては、針の
前へ
次へ
全171ページ中161ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
福田 英子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング