うべな》いて遂に伯に謁《えっ》し、東上の趣意さては将来の目的など申し聞えたるに、大いに同情を寄せられつつ、土倉氏出阪せばわれよりも頼みて御身《おんみ》が東上の意思を貫徹せしめん、幸いに邦家《ほうか》のため、人道のために勉《つと》めよとの御言葉《おんことば》なり。世にも有難《ありがた》くて感涙《かんるい》に咽《むせ》べるその日、図《はか》らざりき土倉氏より招状の来らんとは。そは友人板垣伯より貴嬢の志望を聞きて感服せり、不肖《ふしょう》ながら学資を供せんとの意味を含みし書翰《しょかん》にてありしかば、天にも昇る心地して従弟《いとこ》にもこの喜びを分ち、かつは郷里の父母に遊学の許可を請わしめんとて急ぎその旨を申し送り、倉皇《そうこう》土倉氏の寓所に到りて、その恩恵に浴するの謝辞を陳《の》べ、旅費として五十金を贈られぬ。かくて用意も全く成りつ、一向《ひたぶる》に東上の日を待つほどに郷里にては従弟よりの消息を得て、一度は大いに驚きしかど、かかる人々の厚意に依《よ》りて学資をさえ給《きゅう》せらるるの幸福を無視するは勿体《もったい》なしとて、終《つい》に公然東上の希望を容《い》れたるは、誠に板垣伯
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