さえ額《ひたい》を擦《さす》りて、眩暈《めまい》に托言《ことよ》せ、委《くわ》しくはいずれ上陸のうえと、そのまま横になりて、翌朝九時|漸《ようよ》う大阪に着けば、藤井の宅の妻子および番頭小僧らまで、主人の帰宅を歓《よろこ》び迎え、しかも妾の新来を訝《いぶか》しうも思えるなるべし。その夕《ゆうべ》妾は遂《つい》に藤井夫婦に打ち明けて東上の理由を語りぬ。妻《さい》は深く同情を寄せくれたり、藤井も共に尽力《じんりょく》せんと誓いぬ。
その翌日直ちに土倉氏を銀水楼《ぎんすいろう》に訪れけるに、氏はいまだ出阪《しゅっぱん》しおらざりき、妾の失望いかばかりぞや。されど別に詮様《せんよう》もなく、ひたすらその到着を待ちたりしに、葉石久米堆氏より招待状来り板垣伯に紹介せんとぞいうなる、いと嬉しくて、直ちにその寓所《ぐうしょ》に訪れしに、葉石氏は妾《しょう》が出阪の理由を知らず、婦女の身として一時の感情に一身を誤り給うなと、懇《ねんご》ろなる教訓を垂《た》れ給いき。されど妾の一念|翻《ひるがえ》すべくもあらずと見てか、強《し》いても言わず、とかくは板垣伯に会い東上の趣意を陳《の》べよとあるに、妾は諾《
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