の手前ながら定めて断腸《だんちょう》の思いなりしならんに、日頃|耐忍《たいにん》強き人なりければ、この上はもはや詮方《せんかた》なし、自分は死せる心算《しんさん》にて郷里に帰り、田夫野人《でんぷやじん》と伍《ご》して一生を終うるの覚悟をなさん。かく志《こころざし》を貫《つらぬ》く能《あた》わずして、再び帰郷するの止《や》むなきに至れるは、卿《おんみ》に対しまた朋友《ほうゆう》に対して面目なき次第なるも、如何《いかん》せん両親の慈愛その度に過ぎ、われをして遂《つい》に膝下《しっか》に仕《つか》えしめずんば止まざるべし。病児を抱えて座食する事は、到底至難の事なれば、自分は甘んじて児《じ》のために犠牲とならん、何とぞこの切《せつ》なる心を察して、姑《しば》らく時機を待ちくれよという。今は妾も否《いな》みがたくて、終《つい》に別居の策を講ぜしに、かの子煩悩《こぼんのう》なる性は愛児と分れ住む事のつらければ、折しも妾の再び懐胎せるを幸い、病身の長男哲郎を連れ帰りて、母に代りて介抱せん、一時の悲痛苦悶はさることながら、自分にも一子《いっし》を分ちて、家庭の冷《ひや》やかさを忘れしめよとあるに、これ
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