その愛は良人に非ずして、我が身にあり、我が身の饑渇《きかつ》を恐るるにあり、浅ましいかな彼らの愛や、男子の狼藉《ろうぜき》に遭《あ》いて、黙従の外《ほか》なきはかえすがえすも口惜しからずや。思うに夫婦は両者相愛の情一致して、ここに始めて成立すべき関係なるが故に、人と人との手にて結び合わせたる形式の結婚は妾《しょう》の首肯《しゅこう》する能《あた》わざる所、されば妾の福田と結婚の約を結ぶや、翌日より衣食の途《みち》なきを知らざるに非ざりしかど、結婚の要求は相愛にありて、衣服に非ざることもまた知れり、衣服の顧《かえり》みるに足らざることもまた知れり、常識なき痴情《ちじょう》に溺《おぼ》れたりという莫《なか》れ、妾が良人の深厚《しんこう》なる愛は、かつて少しも衰えざりし、彼は妾と同棲せるがために数万《すまん》の財を棄つること、あたかも敝履《へいり》の如くなりき。結婚の一条件たりし洋行の事は、夫婦の一日も忘れざる所なりしも、調金の道いまだ成らざるに、妾は尋常《ただ》ならぬ身となり、事皆|志《こころざし》と差《ちが》いて、貧しき内に男子を挙げ、名を哲郎《てつろう》とは命じぬ。

 四 神頼み


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