ば、さしもの両親も倦《あぐ》み果てて、そがなすままに打ち任せつつ居たるなりき。かくて彼は差し当り独立の計《はかりごと》をなさん者と友人にも謀《はか》りて英語教師となり、自宅にて教鞭《きょうべん》を執《と》りしに、肩書きのある甲斐《かい》には、生徒の数《かず》ようように殖《ふ》えまさり、生計の営みに事を欠かぬに至りけるに、さては彼、東京に永住せんとするにやあらん、棄て置きなば、いよいよ帰国の念を減ぜしむべしとて、国許《くにもと》より父の病気に托して帰国を促《うなが》し来ることいと頻《しき》りなり。已《や》むなく帰省して見れば、両親は交々《こもごも》身の老衰を打ち喞《かこ》ち、家事を監督する気力も失《う》せたれば何とぞ家居《かきょ》して万事を処理しくれよという。素《もと》より情には脆《もろ》き彼なれば、非道なる圧制にこそ反抗もすれ、事《こと》を分けたる親の言葉の前には我慢の角も折れ尽し、そのまま家におらんかとも考えしかど、多額の借財を負える身の、今家に帰らんか、父さては家に累《わずら》いを及ぼさんは眼の前なりと思い返し、財産は弟に譲るも遺憾なし、自分は思う仔細《しさい》あれば、多年の苦学を
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