見えけるが、その実|福田友作《ふくだともさく》は着のみ着のままの貧書生たりしなり。彼は帰朝以来、今のいわゆるハイカラーなりしかば、有志といえる偽豪傑連《にせごうけつれん》よりは、酒色《しゅしょく》を以て誘《いざな》われ、その高利の借金に対する証人または連借人《れんしゃくにん》たる事を承諾せしめられ、果《はて》は数万《すまん》の借財を負《お》いて両親に譴責《けんせき》せられ、今は家に帰るを厭《いと》いおる時なりき。彼は亜米利加《アメリカ》より法学士の免状を持ち帰りし名誉を顧《かえり》みるの遑《いとま》だになく、貴重の免状も反古《ほご》同様となりて、戸棚の隅に鼠《ねずみ》の巣とはなれるなりき。可哀《かわい》さの余りにか将《は》た憎《にく》さにか、困らせなば帰国するならん、東京にて役人などになって貰《もら》わんとて、学問はさせしに非《あら》ずと、実《げ》に親の身としては、忍びざるほどの恥辱苦悶を子に嘗《な》めさせ、なお帰らねば廃嫡《はいちゃく》せんなど、種々の難題を持ち出せしかど、財産のために我が抱負《ほうふ》理想を枉《ま》ぐべきに非《あら》ずとて、彼は諾《うべな》う気色《けしき》だになけれ
前へ 次へ
全171ページ中149ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
福田 英子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング