アア妾もまた不幸|落魄《らくはく》の身なり、不徳不義なる日本紳士の中《うち》に立ち交らんよりは、知らぬ他郷こそ恋しけれといいけるに、彼は忽《たちま》ち活々《いきいき》しく、さらば自分と同行するの意はなきや、幸い十年足らずかの地に遊学せし身なれば、かの地の事情に精通せりなど、真心《まごころ》より打ち出《いだ》されて、遠き沙漠《さばく》の旅路に清き泉を得たらんが如く、嬉しさ慕《した》わしさの余りより、その後|数※[#二の字点、1−2−22]《しばしば》相会しては、身にしみじみと世の果敢《はか》なさを語り語らるる交情《なからい》となりぬ。ある日彼は改めて御身《おんみ》にさえ異存なくば、この際結婚してさて渡航の準備に着手せんといい出でぬ。妾も心中この人ならばと思い定めたる折柄《おりから》とて、直ちに承諾の旨《むね》を答え、いよいよ結婚の約を結びて、母上にも事情を告げ、彼も公然その友人らに披露《ひろう》して、それより同棲《どうせい》することとなり、一時|睦《むつ》まじき家庭を造りぬ。
二 貧書生《ひんしょせい》
その頃の新聞紙上には、豪農の息子|景山英《かげやまひで》と結婚すなどの記事も
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