しに、不幸にして校主|敬宇《けいう》先生の遠逝《えんせい》に遭《あ》い閉校の止《や》むなき有様となりたるなり。その境遇あたかも妾と同じかりければ、彼は同情の念に堪えざるが如く、頻《しき》りに妾の不運を慰めしが、その後《のち》両親との意見|相和《あいわ》せずして、益※[#二の字点、1−2−22]不幸の境に沈むと同時に、同情相憐れむの念いよいよ深く、果《はて》は妾に向かい再び海外に渡航して、かの国にて世を終らんかなどの事をさえ打ち明くるに至りければ、妾もまたその情に撃たれつつ、御身《おんみ》は妾と異なりて、財産家の嫡男《ちゃくなん》に生れ給い、一度《ひとたび》洋行してミシガン大学の業を卒《お》え、今は法学士の免状を得て、芽出《めで》たく帰朝せられし身ならずや、何故《なにゆえ》なればかかる悲痛の言をなし給うぞ。妾の如く貧家に生れ今日《こんにち》重ねてこの不運に遇《あ》いて、あわや活路を失わんずるものとは、同日《どうじつ》の談にあらざるべしと詰《なじ》りしに、実に彼は貧《ひん》よりもなおなおつらき境遇に彷徨《さまよ》えるにてありき。彼は忽《たちま》ち眼中に涙を浮べて、財産家に生るるが幸福なりと
前へ 次へ
全171ページ中146ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
福田 英子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング