責《きっせき》せしに、重井は益※[#二の字点、1−2−22]その不徳の本性《ほんしょう》を現わしたりけれど、泉は女だけにさすがに後悔《こうかい》せしにやあらん、その後久しく消息を聞かざりしが、またも例の幻術《げんじゅつ》をもて首尾《しゅび》よく農学博士の令室《れいしつ》となりすまし、いと安らかに、楽しく清き家庭を整《ととの》えおらるるとか。聞くが如きは、重井と彼女との間に生れたる男子は、彼女の実兄泉某の手に育てられしが、その兄発狂して頼みがたくなれるをもて、重井を尋《たず》ねて、身を托せんと思い立ちしに、その妾お柳《りゅう》のために一言《いちごん》にして跳付《はねつ》けられ、已《や》むなく博士某の邸《てい》に生みの母なる富子夫人を尋ぬれば、これまた面会すらも断わられて、爾来《じらい》行く処を知らずとぞ。年齢はなお十三、四歳なるべし。しかも辛苦《しんく》の内に成長したればか、非常にませし容貌なりとの事を耳にしたれば、アア何たる無情ぞ何たる罪悪ぞ、父母共に人に優《すぐ》れし教育を受けながら、己れの虚名心に駆られて、将来有為の男児をば無残々々《むざむざ》浮世の風に晒《さら》し、なお一片|可憐
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