《かれん》なりとの情《こころ》も浮ばず、ようよう尋ね寄りたる子を追い返すとは、何たる邪慳《じゃけん》非道《ひどう》の鬼ぞやと、妾は同情の念|已《や》みがたく、如何《いか》にもしてその所在を知り、及ばずながら、世話して見んと心掛くるものから、いまだその生死をだに知るの道なきこそ遺憾《いかん》なれ。

 五 驚くべき相談|対手《あいて》

 ここにおいて妾《しょう》は全く重井のために弄《もてあそ》ばれ、果《はて》は全く欺《あざむ》かれしを知りて、わが憤怨《ふんえん》の情は何ともあれ、差し当りて両親兄弟への申し訳を如何《いか》にすべきと、ほとほと狂すべき思いなりしをわれを励《はげ》まし、かつて生死をさえ共にせんと誓いたりし同志中、特《こと》に徳義深しと聞えたるある人に面会し、一部始終を語りて、その斡旋《あっせん》を求めけるに、さても人の心の頼めがたさよ、彼|曰《いわ》く既に心変りのしたる者を、如何に説けばとて、責《せ》むればとて、詮《せん》もなからん。むしろ早く思い棄てて更《さら》に良縁を求むるこそ良《よ》けれ、世間|自《おの》ずから有為の男子に乏しからざるを、彼一人のために齷齪《あくせく》
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