護士岡崎某の妻となり、その縁によりて父の弁護を頼みぬ。されば岡崎氏は彼女に取りて忘るべからざる恩人にて、妾が出獄せし際の如きも岡崎氏と相挈《あいたずさ》え、特《こと》に妾を迎えて郷里に同行するなど、妾との間柄もほとんど姉妹の如くなりしに、岡崎氏の家計|不如意《ふにょい》となるに及びて、彼女はこれを厭《いと》い、当時全盛に全盛を極めたる重井の虚名に恋々《れんれん》して、遂《つい》に良人《りょうじん》たり恩人たる岡崎氏を棄て、心強くも東京に奔《はし》りて重井と交際し、果はその愛を偸《ぬす》み得たりしなり。かかる野心のありとも知らず、妾はなお昔の如く相親しみ相睦《あいむつ》み合いしに、ある日重井よりの書翰《しょかん》あり、読みもて行くに更に何事《なにごと》とも解し得ざりしこそ道理なれ、富子は何日《いつ》か懐胎《かいたい》してある病院に入院し子を分娩したるなり。さればその書翰は、入院中の彼女に送るべきものなりしに、重井の軽率にも、妾への書面と取り違《ちが》えたるなりとは、天罰とこそいうべけれ。かくと知りたる妾の胸中は、今ここに記《しる》すまでもなきことなり、直ちに重井と泉に向かってその不徳を詰
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