田《かんだ》錦町《にしきちょう》の寓居《ぐうきょ》に入りけるに、一年余りも先に来り居たる叔母は大いに喜び、一同を労《いた》わり慰めて、絶えて久しき物語に余念とてはなかりけり。
三 変心の理由
家族の東京に集まりてより、重井の挙動全く一変し、非常に不満の体《てい》にて訪《と》い来る事も稀々《まれまれ》なりしが、妾はなおそれとは気付かず、ただただ両親兄弟に対し前約を履行《りこう》せざるを恥ずるが故とのみ思い取りしかば、しばしば彼に告ぐるに両親の悪意なきことを以てしけれども、なお言《ことば》を左右に托して来らず、ようよう疎遠の姿となりて、果《はて》はその消息さえ絶えなんとはしたり。こは大いに理由ある事にて、彼は全く変心せしなり、彼は妾《しょう》の帰国中妾の親友たりし泉富子《いずみとみこ》と情を通じ、妾を疎隔《そかく》せんと謀《はか》りしなり。
四 泉富子(変名)
ここに泉富子([#ここから割り注]目下農学博士某の妻なり[#ここで割り注終わり])の来歴を述べんに、彼女は素《もと》備前の産《うま》れなり。父なる人ある府庁に勤務中|看守盗《かんしゅとう》の罪を犯して入獄せしかば、弁
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