件を芝居に仕組みて開場のはずなれば、是非見物し給われとの事に、厚意《こうい》黙止《もだし》がたく、一日両親を伴いて行き見るに、その技芸|素《もと》より今日《こんにち》の如く発達しおらぬ時の事とて、科《しぐさ》といい、白《せりふ》といい、ほとんど滑稽に近く、全然|一見《いっけん》の価《あたい》なきものなりき。しかも当時大阪事件が如何《いか》に世の耳目《じもく》を惹《ひ》きたりしかは、市《し》の子女をしてこの芝居を見ざれば、人に非《あら》ずとまでに思わしめ、場内毎日|立錐《りっすい》の余地なき盛況を現《げん》ぜしにても知らるべし、不思議というも愚《おろ》かならずや。その興業中川上は数※[#二の字点、1−2−22]《しばしば》わが学校に来りて、その一座の重なる者と共に、生徒に講談を聴かせ、あるいは菓子を贈るなど頗《すこぶ》る親切|叮嚀《ていねい》なりしが、ある日|特《こと》に小介《こもの》をして大きなる新調の引幕《ひきまく》を持ち来らしめ、こは自分が自由民権の大義を講演する時に限りて用うべき幕なれば、何とぞわが敬慕する尊姉《そんし》の名を記入されたく、即ち表面上尊姉より贈られたるものとして、
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