聊《いささ》か自分の面目を施《ほどこ》したしという。妾は当時の川上が性行《せいこう》を諒知《りょうち》し居たるを以て、まさかに新駒《しんこま》や家橘《かきつ》の輩《はい》に引幕を贈ると同一には視《み》らるることもあるまじとて、その事を諾《うべな》いしに、この事を聞きたる同地の有志家連は、身《み》自由平等を主張なしながら、いまだ階級思想を打破し得ざりしと見え、忽《たちま》ち妾に反対して頗《すこぶ》る穏やかならぬ形勢ありければ、余儀なくその意を川上に洩《も》らして署名を謝絶しけるに、彼は激昂《げっこう》して穏やかならぬ書翰《しょかん》を残し、即日岡山を立ち去りぬ。しかるにその翌二十三年かあるいは四年の頃と覚ゆ、妾も東上して本郷《ほんごう》切《き》り通《どお》しを通行の際、ふと川上一座と襟《えり》に染《そ》めぬきたる印半天《しるしばんてん》を着せる者に逢い、思わずその人を熟視せしに、これぞ外《ほか》ならぬ川上にして、彼も大いに驚きたるものの如く、一別《いちべつ》以来の挨拶振《あいさつぶ》りも、前年の悪感情を抱きたる様子なく、今度|浅草鳥越《あさくさとりごえ》において興業することに決し、御覧の
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