げぬ。初秋《はつあき》のいと爽《さわ》やかに晴れたる日なりき。生れて十七年の住みなれし家に背《そむ》き、恩愛厚き父母の膝下《しっか》を離れんとする苦しさは、偲《しの》ぶとすれど胸に余りて、外貌《おもて》にや表われけん、帰るさの途上《みちみち》も、母上は妾の挙動を怪《あや》しみて、察する所今度の学校停止に不満を抱き、この機を幸いに遊学を試みんとには非ずや、父上の御許《おんゆる》しこそなけれ母は御身《おんみ》を片田舎の埋木《うもれぎ》となすを惜しむ者、如何で折角《せっかく》の志を沮《はば》むべき、安《やす》んじて仔細《しさい》を語れよと、さりとは慈愛深き御仰《おんおお》せかな。されど妾は答えざりき、そは母上より父上に語り給わば到底|御許容《おんゆるし》なきを知ればなり。かくて先《ま》ず志士《しし》仁人《じんじん》に謀りて学資の輔助《ほじょ》を乞い、しかる上にて遊学の途《と》に上《のぼ》らばやと思い定め、当時自由党中慈善の聞え高かりし大和《やまと》の豪農|土倉庄三郎《どくらしょうざぶろう》氏に懇願せんとて、先ずその地を志し窃《ひそ》かに出立《しゅったつ》の用意をなすほどに、自由党解党の議起り
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