娶《めと》らんと希《ねが》う者なるべし。さあれ貴嬢にしてもしわが志《こころざし》を酌《く》み給わずば、われは遂《つい》に悲哀の淵《ふち》に沈み果てなん。アア口惜しの有様やとて、ほとんど自失せし様子なりしが、忽《たちま》ち小刀《ナイフ》をポッケットに探《さぐ》りて、妾に投げつけ、また卓子《テーブル》に突き立てて妾を脅迫し、強《し》いて結婚を承諾せしめんとは試みつ。さてこそ遂に狂したれと、妾は急ぎ書生を呼び、好《よ》きほどに待遇《あしら》わしめつつ、座を退《しりぞ》きてその後の成行きを窺《うかが》う中《うち》、書生は客を賺《すか》し宥《なだ》めて屋外に誘《いざな》い、自《みずか》ら築地《つきじ》なる某教会に送り届けたりき。

 三 川上音二郎《かわかみおとじろう》

 これより先、大阪滞在中和歌山市有志の招待を得て、重井《おもい》と同行する事に決し、畝下熊野《はたしたゆや》([#ここから割り注]現代議士山口熊野[#ここで割り注終わり])、小池平一郎《こいけへいいちろう》、前川虎造《まえかわとらぞう》の諸氏と共に同地に至り同所有志の発起《ほっき》に係《かか》る懇親会に臨《のぞ》みて、重井その
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