細君とはなりき。当時送り来りし新夫婦の写真今なおあり、これに対するごとにわれながら坐《そぞ》ろに微笑の浮ぶを覚えつ。

 二 大奇談 

 その頃なお一層の奇談あり。妾が東京に家を卜《ぼく》せしある日の事、福岡県人菊池某とて当時|耶蘇《ヤソ》教伝道師となり、普教に勉《つと》めつつありたるが、時の衆議院議員、嘉悦氏房《かえつうじふさ》氏の紹介状を携《たずさ》え来りて、妾に面会せん事を求めぬ。固《もと》より如何《いか》なる人にても、かつて面会を拒《こば》みし事のなき妾は、直ちに書生をして客室《かくしつ》に請《しょう》ぜしめ、頓《やが》て出でて面せしに、何思いけん氏は妾の顔を凝視《ぎょうし》しつつ、口の内にてこれは意外これは意外といい、頗《すこぶ》る狼狽《ろうばい》の体《てい》にて妾の挨拶《あいさつ》に答礼だも施《ほどこ》さず、茫然《ぼうぜん》としていよいよ妾を凝視するのみ。妾は初め怪《あや》しみ、遂《つい》には恐れて、こは狂人なるべし、狂人を紹介せる嘉悦氏もまた無礼ならずやと、心に七分の憤《いきどお》りを含みながら、なお忍びに忍びて狂人のせんようを見てありしに、客は忽《たちま》ち慚愧《ざん
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