》にはなつかしき母上の飛び出で給いて、やれ無事に帰りしか、大病を悩《わず》らいしというに、かく健《すこ》やかなる顔を見ることの嬉しさよと涙片手に取り縋《すが》られ、アア今日は芽出《めで》たき日ゆえ泣くまじと思いしに、覚えず嬉し涙がこぼれしとて、兄弟|甥姪《おいめい》を呼びて、それぞれに喜びを分ち給う。挨拶《あいさつ》終りて、ふと傍《かたわ》らに一青年のあるに心付き、この人よ、船中にても種々《いろいろ》親切に世話しくれたり、彼はそも何人《なんぴと》なりやと尋《たず》ねしに、そは何《な》にをいう、弟|淳造《じゅんぞう》を忘れしかといわれて一驚《いっきょう》を喫《きっ》し、さても変れば変る者かな、妾《しょう》の郷を出でしは七年の昔、彼が十三、四の蛮貊盛《わんぱくざか》りなりし頃なり、しかるに今は妻をさえ迎えて、遠からず父と呼ばるる身の上なりとか。実《げ》に人の最も変化するは十三歳頃より十七、八歳の頃にぞある、見違えしも宜《むべ》ならずやなど笑い興じて、共に腕車《わんしゃ》に打ち乗り、岡山有志家の催しにかかる慰労の宴に臨《のぞ》まんため、岡山公園なる観楓閣《かんぷうかく》指して出立《いでた》つ
前へ 次へ
全171ページ中111ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
福田 英子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング