石の、今は昔互いに睦《むつ》み親しみつつ旦暮《あけくれ》訪《と》いつ訪われつ教えを受けし事さえ多かりしを懐《おも》い、また今の葉石とて妾に対して露《つゆ》悪意のあるに非《あら》ざるを察しやりては、この際重井と結婚を約するは情において忍びざる所なきに非ず、情緒《じょうちょ》乱れて糸の如しといいけん、妾もそれの、思い定めがたくて、いずれ帰国の上父母とも相談してと答えけるに、素《もと》より葉石との関係を知れる彼は、容易に諾《うべな》わず、もし葉石と共に帰国せば、他の斡旋《あっせん》に余儀なくせられて、強《し》いて握手することともならんずらん、今の時を失いてはとて、なお妾を催《うなが》して止《や》まず、遂《つい》に軽率とは思いながらに、ともかくも承知の旨を答えたりしぞ妾が終生の誤りなりける。
二 一家の出迎い
それより葉石および親戚の者五、六名と共に船にて帰郷の途《と》につきしが、頓《やが》て三番港《さんばんみなと》に到着するや、某地の有志家わが学校の生徒およびその父兄ら約数百名の出迎いありて、雑沓《ざっとう》言わん方《かた》もなく、上陸して船宿《ふなやど》に抵《いた》れば、其処《そこ
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