互いに無事出獄せるこそ幸いなれ、ここに決心して結婚の約を履《ふ》まんという。こは予《かね》てよりの覚悟なりけれど、大阪に到着の夜、父上の寝物語りに、両三日来|中江《なかえ》先生、栗原亮一《くりはらりょういち》氏ら頻《しき》りにわれに説きて、汝《おんみ》と葉石《はいし》と結婚せしむべきことを勧められぬ、依っていずれ帰国の上、義兄らにも相談して、いよいよ挙行すべしと答えおきたりとあり。妾がこれを聞きたる時の驚きは、青天《せいてん》の霹靂《へきれき》にも喩《たと》うべくや、所詮《しょせん》は中江先生も栗原氏も深き事情を知り給わずして、一図《いちず》に妾と葉石との交情を旧の如しと誤られ、この機を幸いに結婚せしめんとの厚意なるべし。さあれ覆水《ふくすい》争《いか》でか盆に復《か》えるべき、父上にはいずれ帰国の上、申し上ぐることあるべしと答え置き、それより中江、栗原両氏に会いて事情を具し、妾《しょう》にその意なきことを謝《ことわ》りしかば、両氏も始めて己《おの》れらの誤解なることを覚《さと》り、その後さることは再び口にせざるに至りき。かくて妾の決心は堅かりしかど、さすがに幼馴染《おさななじみ》の葉
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